前回は、「健康って?」について、寄稿しました。
その中で、ポジティヴヘルスについて少しだけ触れました。今回はそのポジティヴヘルスについて説明します。
ポジティヴヘルスは、オランダの元家庭医のマフトルド・ヒューバーさんが医学誌の中で2011年に提唱したものです。
ヒューバーさんは健康のコンセプトを以下のように提案しました。
『社会的・身体的・感情的問題に直面したときに適応し、みずから管理する能力としての健康』
病気や障害があっても、周りの力などを支えにして、気落ちすることなく人生を前向きに歩いていけること、その力こそが健康と記しています。
健康を単純に『健康という状態』としてではなく、『健康という能力』があれば人生の困難にぶつかっても乗り越えられると捉え直したのです。
そして、単に病気がないことを定義とする健康と区別するために、このコンセプトを『ポジティヴヘルス』と名付けました。
ポジティヴヘルスは、「身体的機能」「メンタルウェルビーイング」「生きがい」「生活の質」「社会参加」「日常機能」の6つの次元によって構成される幅広い健康の概念です。この6つの次元を6軸として0−10点の点数で図示できる「クモの巣」というツールを考案され、ツールを用いながら本人主導で健康に向けたアクションを行っていきます。
(iPHより オランダ語で先程の6つの軸が記されています)
具体的にポジティヴヘルスは以下の3つを通して実践されます。
- ツールを通じて人生を振り返る
- 医療従事者は、患者にとって大切なものは何か、またそれを得るためには何を変えていかなければいけないかを探求する
- 患者本人にそれに向けたアクションを主導的に選んでもらう
そして、このクモの巣は、点数が高くすることや、低い点数を高めることが目的では使用しません。あくまで、患者本人が自分の状態を主観的にどう捉えているか、何を求めているかの「対話のツール」として用います。
ヒューバーさんは「健康は目的ではなく、本人が大切と考えることを達成するための手段」であることや「治療中心のヘルスケア(ヘルス=健康なので健康ケアですね)は、実際にはヘルスケアではなく、病気ケアだ。こらからは健康をもたらすケアを追求しなくてはならず、その上でもっとも効果的な『薬』は、本人にとって意味のある生活、生きがい。」と話しています。
病気があっても前向きなら健康という考え方は、私たち医療者もはっと気付かされる部分があります。私自身も、医療の役割について考えるきっかけになりました。
カルテの電子化が進み、医師は患者よりもパソコンの画面をみる時間が増えてしまいました。電子カルテの検査の値をみて、それを良くすることに執着しすぎていないか、真の意味でヘルスケアとは何なのか、自分を省みなくてはいけないなと思いました。
みなさんも、ここで紹介したポジティヴヘルスにおいても健康でしょうか?健康でないなら、そのために何ができそうですか?それははたして病院にいけば解決する問題ですか?
高齢化が進み、病気が増えることは間違いない日本において、ヘルスケアについて、医療者に任せず市民で考えなくてはいけない時代になってきたのではないでしょうか。
次回は、「社会的処方」というテーマでお話させていただく予定です。
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