●社会的処方

社会的処方

前回は、「ポジティヴヘルス」について、寄稿しました。
今回は社会的処方について説明します。
社会的処方という言葉聞いたことありますか。
おくすりの処方で解決できない患者さんの問題を、「地域の活動やサービスなどの社会参加への機会」をつくることで解決しようとするものです。

なぜ「社会的処方」というものが存在するのか。
そこには、ヒトという社会的な生物ならではの切実な問題が隠れています。

2010年のとある報告[1]で、「人とのつながりがあるかないか」が「どれだけ運動しているか」「どれだけお酒を飲んでいるか」「肥満かどうか」よりも寿命に与える影響が大きいと発表されました。
その他『孤立』は認知症や自殺の増加にも影響があるのではと言われています。
どうも人間は、集団で生活することが健康のためにも大事なようです。

僕は医師ですが、「社会的処方」をカルテから処方することができません。電子カルテで処方ができるのは、内服薬や注射薬、塗り薬などです。
イギリスにおいては、「社会的処方」を実施できる仕組みがあり、その中心的な役割を担う「リンクワーカー」という職業があります。
本邦においてはこれらの社会的処方を推進する動きが進んでいますが、まだ制度化にはいたっていません。

しかし、視野を広げれば、市内でも公民館などで囲碁教室やヨガ教室開催されているのではないでしょうか。
制度化されていないだけで、市内にも「社会的処方」を行うための素地があり、隠れた医療資源なのです。その重要性に医療者が気づいていないだけなのかもしれません。
当院も地域に根ざす病院として、「社会的処方」ができるようなコミュニティづくりに励んでいます。いつか当院に「社会的処方」を求めて受診する方がみえるようになったり、医師が「社会的処方」をカルテから処方できるようになったりすればよいなと思っています。

町内でこんな活動がある、サークルをやっているなど情報があればぜひ教えてください。毎週火曜日の「医療なんでも相談外来」では、そのような情報の持ち込みも歓迎しておりますし、「社会的処方」を希望して受診されても構いません。そうした活動の一歩一歩が「健康なまちづくり」につながるのではないでしょうか。

僕も「社会的処方」ができるようになったらリンクワーカー(自称)を名乗ろうかなと思います。

[1] Holt-Lunstad J, Smith TB, Layton JB (2010) Social Relationships and Mortality Risk: A Meta-analytic Review. PLOS Medicine 7(7): e1000316.

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